2.12 全微分と偏微分

定理 2.53 (全微分可能の必要条件)   関数 $ z=f(x,y)$ が全微分可能であれば, $ f$ は偏微分可能であり,

$\displaystyle dz= \frac{\partial f}{\partial x}dx+ \frac{\partial f}{\partial y}dy$    

が成り立つ.


(証明)     関数 $ z=f(x,y)$ が全微分可能であれば,

$\displaystyle \Delta z=\alpha\Delta x+\beta\Delta y+o(\rho) \quad(\rho\to0), \quad \rho=\sqrt{\Delta x^2+\Delta y^2}$    

が成り立つ. $ x$ 軸に沿って極限をとる. $ \Delta y=0$, $ \Delta x\to 0$ とする. このとき, $ \rho=\vert\Delta x\vert$ であるから,

$\displaystyle \Delta z=\alpha\Delta x+o(\vert\Delta x\vert) \quad(\vert\Delta x\vert\to0)$    

が成り立つ. これは

  $\displaystyle \frac{\Delta z}{\Delta x}-\alpha= \frac{o(\Delta x)}{\Delta x} \q...
...tarrow\quad \lim_{\Delta x\to 0}\left(\frac{\Delta z}{\Delta x}-\alpha\right)=0$    
  $\displaystyle \quad\Leftrightarrow\quad \alpha= \lim_{\Delta x\to 0}\frac{\Delt...
...a x\to 0}\frac{f(x+\Delta x,y)-f(x,y)}{\Delta x}= \frac{\partial f}{\partial x}$    

と等価である. また,$ y$ 軸に沿って極限をとる. $ \Delta x=0$, $ \Delta y\to 0$ とすると, 同様にして $ \displaystyle{\beta=\frac{\partial f}{\partial x}}$ を得る.

定理 2.54 (全微分可能の十分条件)   関数 $ z=f(x,y)$ において, 偏導関数 $ f_x(x,y)$, $ f_y(x,y)$ が存在し, かつこれらが連続関数であれば, $ z=f(x,y)$ は全微分可能である. (注意)逆は成り立たない.

注意 2.55 (全微分可能の十分条件)   全微分可能となる十分条件は他にもあるが, 上の定理が一番実用的である.

2.56 (全微分)   関数 $ z=f(x,y)=x^2e^{xy}$ は 偏導関数

$\displaystyle f_x(x,y)$ $\displaystyle =(x^2e^{xy})_x=2xe^{xy}+x^2ye^{xy}=(2x+x^2y)e^{xy},$    
$\displaystyle f_y(x,y)$ $\displaystyle =(x^2e^{xy})_y=x^3ye^{xy}$    

が存在し,これらは連続関数である. よって $ f(x,y)$ は全微分可能である. また,$ z$ の全微分は

$\displaystyle dz=f_x(x,y)\,dx+f_y(x,y)\,dy= (2x+x^2y)e^{xy}\,dx+x^3e^{xy}\,dy = e^{xy}\left( (2x+x^2y)\,dx+x^3\,dy \right)$    

となる. (注意)微分 $ dx$, $ dy$ と関数 $ e^{xy}$, $ 2x+x^2y$, $ x^3$ の 書く順を入れ替えてはならない. つまり, $ dz=((2x+x^2y)dx+x^3dy)e^{xy}$ $ dz=e^{xy}(dx\,(2x+x^2y)+dy\,x^3)$誤った表記である.

2.57 (全微分)   関数 $ z=x^4y+x^2y^3+xy^4$ は 偏導関数

$\displaystyle z_x=4x^3y+2xy^3+y^4, \qquad z_y=x^4+3x^2y^2+4xy^3$    

が存在し,かつこれらは連続関数である. よって $ z$ は全微分可能であり,$ z$ の全微分は

$\displaystyle dz= z_x\,dx+z_y\,dy= (4x^3y+2xy^3+y^4)\,dx+ (x^4+3x^2y^2+4xy^3)\,dy$    

となる.

2.58 (全微分)   関数 $ \displaystyle{
\theta=\tan^{-1}\left(\frac{y}{x}\right)}$ は 偏導関数

$\displaystyle \theta_x=\frac{-y}{x^2+y^2}, \qquad \theta_y=\frac{x}{x^2+y^2},$    

が存在し,かつこれらは原点を除き連続関数である. よって $ z$ は原点を除き全微分可能であり,$ z$ の全微分は

$\displaystyle d\theta= \theta_x\,dx+\theta_y\,dy= \frac{-y}{x^2+y^2}\,dx+ \frac{x}{x^2+y^2}\,dy = \frac{-y\,dx+x\,dy}{x^2+y^2}$    

となる. (注意)微分 $ dx$, $ dy$ と関数 $ -y$, $ x$ の 書く順を入れ替えてはならない. また,分母 $ x^2+y^2$ の部分は微分 $ dx$, $ dy$ の 前から $ (x^2+y^2)^{-1}$ が掛けられているという意味で あることに注意する. つまり,以下の表記はすべて誤った表記である:

$\displaystyle d\theta= \frac{-dx\,y+dy\,x}{x^2+y^2}= (-y\,dx+x\,dy)\frac{1}{x^2+y^2}= (-dx\,y+dy\,dx)\frac{1}{x^2+y^2}.$    

2.59 (全微分)   関数 $ u=xy+yz+zx$ は 偏導関数

$\displaystyle u_x=u+z, \quad u_y=x+z, \quad u_z=y+x$    

が存在し,かつこれらは連続関数である. よって $ u$ は全微分可能であり,$ u$ の全微分は

$\displaystyle du= u_x\,dx+u_y\,dy+u_z\,dz= (u+z)\,dx+ (x+z)\,dy+ (x+y)\,dz$    

となる.

2.60 (全微分)   次の関数の全微分を求めよ.

  $\displaystyle (1)\quad z=x\cos y-y\cos x \qquad (2)\quad w=xy+yz+zx$    

Kondo Koichi
平成18年1月18日