Next: 5 数ベクトル空間 Up: 1 ベクトル空間 Previous: 3 集合算   Contents
4 体
ある集合の元に対して四則演算が定義され, その集合内で閉じているとき, その集合を体と呼ぶ. 正確には次のように定義される.
定義 1.15 (体) 集合 の任意の 2 つの元 , に対して, 加法 と乗法 が定義されているとする.
(1) . (和の結合則) (2) . (零元 0 の存在) (3) . (和の逆元 の存在) (4) . (和の交換則) (5) . (積の結合則) (6) , . (分配則) (7) . (積の交換則) (8) . (単位元 の存在) (9) .ただし, とする. (積の逆元 の存在)
- 条件(1)-(3) を満たすとき, 集合 を群(group)と呼ぶ.
- 条件(1)-(4) を満たすとき, 集合 を可換群(commutative group) またはアーベル群(Abel group)と呼ぶ.
- 条件(1)-(6) を満たすとき, 集合 を環(ring)と呼ぶ.
- 条件(1)-(7) を満たすとき, 集合 を可換環(commutative ring)と呼ぶ.
- 条件(1)-(9) を満たすとき, 集合 を体(field)と呼ぶ. ただし, 条件(7)を満たさない体を 非可換体(noncommutative field)と呼ぶ.
定理 1.16 (零元,単位元,逆元の一意性)
- (1)
- 零元 0,単位元 は唯一つに定まる.
- (2)
- 和の逆元 は各 に対して唯一つに定まる.
- (3)
- 積の逆元 は各 に対して唯一つに定まる.
問 1.17 (零元,単位元,逆元の一意性) これを示せ.
(証明) (1) 零元が 0, と二つ存在するとする. すなわち
(1)
とする. この式は全ての元 で成立するので, 第一式の を とし, 第二式の を 0 とすると
(2)
となる. , より, を得る. 零元は唯一つに定まる.(2) の和の逆元が , と二つ存在するとする. すなわち
(3)
とする. に左から を加えると
(4)
となる. 和の結合則より左辺の和の順を変える. 右辺は零元を加えているので
(5)
が成り立つ. を用いると
(6)
である.よって
(7)
を得る. に対する和の逆元は唯一つに定まる.(3) (2)と同様に示される.
例 1.18 (体の具体例) 数の集合
(8)
を考える.
- 自然数全体の集合 を考える. は加法,乗法ともに群をなさない. なぜなら,和の逆元 ,積の逆元 は自然数の 範囲内で存在しないからである.
- 整数全体の集合 を考える. は可換環である. 積の逆元が存在しないので体とはならないことに注意する.
- 有理数全体の集合 を考える. は体である.
- 実数全体の集合 を考える. は体である. を実数体と呼ぶ.
- 複素数全体の集合 を考える. は体である. を複素数体と呼ぶ.
例 1.19 (体の具体例)
- 0 でない実数全体の集合 は 乗法に関して可換群となる. (積 を和 に置き換えて考える. 条件(5),(8),(9),(7)は条件(1),(2),(3),(4)とみなせる.)
- 行列の集合 は 加法に関して可換群となる. ( (1) . (2) . (3) . (4) .)
- 正方行列の集合 は 加法と乗法に関して環となる. ( 条件(1)-(4)と (5) . (6) . (注意) 単位元は単位行列 である. であるから可換環ではない.)
- 正則な 型行列の集合 は非可換体となる. ( (8) . (9) . (7) .)
Next: 5 数ベクトル空間 Up: 1 ベクトル空間 Previous: 3 集合算   ContentsKondo Koichi
Created at 2004/12/13