5.20 テイラー級数を用いた関数の極限の計算

関数

$\displaystyle f(x)$ $\displaystyle =\frac{\sin x}{x}$    

$ x\to 0$ における極限を考える. $ f(x)$ をテイラー級数で表わしたのち関数の極限を求める. すなわち

$\displaystyle \lim_{x\to0}f(x)= \lim_{x\to0}\left\{\text{$f(x)$\ の $x=0$\ まわりでのテイラー級数}\right\}$    

として計算する. まず分子である $ \sin x$ をテイラー展開すると

$\displaystyle \sin x$ $\displaystyle = x-\frac{x^3}{6}+\frac{x^5}{5!}+O(x^7)$    

となる. 次に分子 $ \sin x$ を分母 $ x$ で割り, $ f(x)$ のテイラー展開を求める. すなわち

$\displaystyle f(x)$ $\displaystyle =\frac{\sin x}{x}= \frac{x-\frac{x^3}{6}+\frac{x^5}{5!}+O(x^7)}{x}= 1-\frac{x^2}{6}+\frac{x^4}{5!}+O(x^6)$    

を得る. もとの関数とテイラー級数で表わした関数とは等価なものである. よって

  $\displaystyle \lim_{x\to0}f(x)= \lim_{x\to0}\left( 1-\frac{x^2}{6}+\frac{x^4}{5!}+O(x^6) \right)= 1-0+0+0=1$    

を得る. 関数 $ \displaystyle{f(x)=\frac{\sin x}{x}}$ はもともと点 $ x=0$ において 値が定義されていない. しかしながら, 等価な式であるテイラー級数では, 点 $ x=0$ は特別な点ではない. 点 $ x=0$ は見かけの不連続点である. ある関数に不連続点があるとき, その不連続点が取り除けるかどうかは, その関数をテイラー級数表示をすればよい.

5.50 (極限の計算)   極限

$\displaystyle \lim_{x\to0}\frac{e^{x}-1}{x}$    

を求めよ.

5.51 (テイラー展開を用いた極限の計算の例)   関数

$\displaystyle f(x)$ $\displaystyle =\sqrt{x^2-2x}-x$    

に対して極限 $ \displaystyle{\lim_{x\to\infty}f(x)}$ を考える. このとき

$\displaystyle \lim_{x\to\infty}f(x)= \lim_{x\to\infty} \left\{\text{$f(x)$\ の $x=\infty$\ まわりのテイラー級数}\right\}$    

として極限を求める. しかしながら, べき級数 $ \sum c_{n}(x-\infty)^{n}$ は存在しない. そこで変数を $ y=1/x$ と導入する. すると極限は

$\displaystyle \lim_{x\to\infty}f(x)= \lim_{y\to0}f\left(\frac{1}{y}\right)= \li...
...eft\{\text{$f\left(\frac{1}{y}\right)$\ の $y=0$\ まわりのテイラー級数}\right\}$    

と表わされる. $ f(1/y)$ を計算すると

$\displaystyle f\left(\frac{1}{y}\right)= \sqrt{\frac{1}{y^2}-\frac{2}{y}}-\frac{1}{y}= \frac{1}{y}\left( \sqrt{1-2y}-1 \right)$    

となる.まず $ \sqrt{1-2y}$ をテイラー展開すると

$\displaystyle \sqrt{1-2y}$ $\displaystyle =1+\frac{1}{2}(-2y)+ \frac{\frac{1}{2}\left(\frac{1}{2}-1\right)}{2\cdot 1}(-2y)^2+ O\left((-2y)^3\right))= 1-y-\frac{1}{2}y^2+O(y^3)$    

を得る. これを用いて $ f(1/y)$ のテイラー展開を求めると

$\displaystyle f\left(\frac{1}{y}\right)$ $\displaystyle = \frac{1}{y}\left\{\left(1-y-\frac{1}{2}y^2+O(y^3)\right)-1\right\}= \frac{1}{y}\left(-y-\frac{1}{2}y^2+O(y^3)\right)= -1-\frac{1}{2}y+O(y^2)$    

となる.よって極限は

$\displaystyle \lim_{x\to\infty}f(x)$ $\displaystyle = \lim_{y\to0}f\left(\frac{1}{y}\right)= \lim_{y\to0}\left\{ -1-\frac{1}{2}y+O(y^2) \right\}= -1+0+0=-1$    

と得られる.


平成21年6月1日