5.14 行列の対角化

定義 5.36 (対角化)   正方行列 $ A$ を相似変換により対角行列 $ D$ に変換することを 対角化という. すなわち,

$\displaystyle D=P^{-1}AP$    

をみたす対角行列 $ D$ と正則行列 $ P$ を 定めることを対角化いう.

$ D$, $ P\in\mathbb{R}^{n\times n}$ が存在するとき, $ A$ は実数体上で対角化されるという. $ D$, $ P\in\mathbb{C}^{n\times n}$ が存在するとき, $ A$ は複素数体上で対角化されるという.

注意 5.37 (対角化)   正方行列 $ A$ は常に対角化可能とは限らない.

注意 5.38 (対角化と固有値)   $ D$$ A$ の相似変換により定まるので両者の固有値は等しく, 対角行列 $ D=\begin{bmatrix}d_{ij}\delta_{ij}\end{bmatrix}$ の 対角成分 $ d_{11},d_{22},\cdots,d_{nn}$ が固有値となる. なぜなら,

$\displaystyle g_{A}(t)=g_{D}(t)=\det(tE-D)= \begin{vmatrix}t-d_{11}\!& & & \sma...
...{\huge$0$}}& & & \!t-d_{nn} \end{vmatrix} =(t-d_{11})(t-d_{22})\cdots(t-d_{nn})$    

となるからである. よって行列 $ A$ の固有値を $ \lambda_1,\lambda_2,\cdots,\lambda_n$ とすると $ D$

$\displaystyle D= \begin{bmatrix}\lambda_1 & & & \smash{\lower1.7ex\hbox{\text{\...
...\lambda_2 \\ & & \ddots \\ \smash{\text{\huge$0$}}& & & \lambda_n \end{bmatrix}$    

と表される.

定義 5.39 (対角行列)   対角行列

$\displaystyle D= \begin{bmatrix}\lambda_1 & & & \smash{\lower1.7ex\hbox{\text{\...
...\lambda_2 \\ & & \ddots \\ \smash{\text{\huge$0$}}& & & \lambda_n \end{bmatrix}$    

を省略記号として

$\displaystyle D=\mathrm{diag}\,(\lambda_1,\lambda_2,\cdots,\lambda_n)$    

と表す.

行列 $ A$ の固有値を $ \lambda_1$, $ \lambda_2$, $ \cdots$, $ \lambda_n$ とする. ただし,重複する固有値は別のものとして考える. $ \lambda_1$, $ \lambda_2$, $ \cdots$, $ \lambda_n$ に 属する固有ベクトルをそれぞれ $ \vec{p}_1$, $ \vec{p}_2$, $ \cdots$, $ \vec{p}_n$ とする. このとき固有方程式 $ A\vec{x}=\lambda\vec{x}$ より

$\displaystyle A\vec{p}_1=\lambda_1\vec{p}_1,\quad A\vec{p}_2=\lambda_2\vec{p}_2,\quad \cdots,\quad A\vec{p}_n=\lambda_n\vec{p}_n$    

が成り立つ. これを列ベクトルとして並べると

  $\displaystyle \begin{bmatrix}A\vec{p}_1 & A\vec{p}_2 & \cdots & A\vec{p}_n \end...
...A \begin{bmatrix}\vec{p}_1 & \vec{p}_2 & \cdots & \vec{p}_n \end{bmatrix} = AP,$    
  $\displaystyle \begin{bmatrix}A\vec{p}_1 & A\vec{p}_2 & \cdots & A\vec{p}_n \end...
... & \!\ddots\! \\ \smash{\text{\huge$0$}}\! & & & \!\lambda_n \end{bmatrix} = PD$    

となる. これより $ AP=PD$ が成り立つ. $ P$ が正則行列であれば 左から $ P^{-1}$ を掛けて

$\displaystyle D=P^{-1}AP$    

が成り立つ. $ P$ が正則行列となるための 必要十分条件は $ \vec{p}_1$, $ \vec{p}_2$, $ \cdots$, $ \vec{p}_n$ が 1 次独立であることである.

定理 5.40 (対角化)   正方行列 $ A$ の固有値を $ \lambda_1$, $ \lambda_2$, $ \cdots$, $ \lambda_n$ とし, その固有ベクトルをそれぞれ $ \vec{p}_1$, $ \vec{p}_2$, $ \cdots$, $ \vec{p}_n$ とする. $ \vec{p}_1$, $ \vec{p}_2$, $ \cdots$, $ \vec{p}_n$ が 1 次独立であるとき, $ A$

$\displaystyle D=P^{-1}AP, \qquad D=\mathrm{diag}\,(\lambda_1,\lambda_2,\cdots,\...
...quad P= \begin{bmatrix}\vec{p}_1 & \vec{p}_2 & \cdots & \vec{p}_n \end{bmatrix}$    

により対角化される.

定理 5.41 (固有ベクトルの 1 次独立性)   固有値 $ \lambda_1$, $ \cdots$, $ \lambda_n$ が 互いに異なるとき, 固有ベクトル $ \vec{p}_1$, $ \cdots$, $ \vec{p}_n$ は 1 次独立である.


(証明)     $ \vec{p}_1$, $ \cdots$, $ \vec{p}_n$ の 1 次独立なベクトルの最大個数を $ r$ とする. $ \vec{p}_1$, $ \cdots$, $ \vec{p}_r$ を 1 次独立とし, $ \vec{p}_1$, $ \cdots$, $ \vec{p}_r$, $ \vec{p}_{r+1}$ を 1 次従属とする. このとき

$\displaystyle \vec{p}_{r+1}$ $\displaystyle = c_1\vec{p}_1+c_2\vec{p}_2+\cdots+c_{r}\vec{p}_{r}$    

と書ける. 両辺に $ A$ を掛けると

$\displaystyle A\vec{p}_{r+1}$ $\displaystyle = c_1A\vec{p}_1+c_2A\vec{p}_2+\cdots+c_{r}A\vec{p}_{r}$    
$\displaystyle \lambda_{r+1}\vec{p}_{r+1}$ $\displaystyle = c_1\lambda_1\vec{p}_1+ c_2\lambda_2\vec{p}_2+ \cdots+ c_{r}\lambda_{r}\vec{p}_{r}$    

となる. また, $ \lambda_{r+1}$ を掛けると

$\displaystyle \lambda_{r+1}\vec{p}_{r+1}$ $\displaystyle = c_1\lambda_{r+1}\vec{p}_1+ c_2\lambda_{r+1}\vec{p}_2+ \cdots+ c_{r}\lambda_{r+1}\vec{p}_{r}$    

となる. これらを差引すると

$\displaystyle (\lambda_{r+1}-\lambda_{r+1})\vec{p}_{r+1}$ $\displaystyle = c_1(\lambda_{r+1}-\lambda_1)\vec{p}_1+ c_2(\lambda_{r+1}-\lambda_2)\vec{p}_2+ \cdots+ c_{r}(\lambda_{r+1}-\lambda_n)\vec{p}_{r}$    
$\displaystyle \vec{0}$ $\displaystyle = c_1(\lambda_{r+1}-\lambda_1)\vec{p}_1+ c_2(\lambda_{r+1}-\lambda_2)\vec{p}_2+ \cdots+ c_{r}(\lambda_{r+1}-\lambda_r)\vec{p}_{r}$    

を得る. これは $ \vec{p}_1$, $ \cdots$, $ \vec{p}_r$ の 1 次関係である. $ \vec{p}_1$, $ \cdots$, $ \vec{p}_r$ は 1 次独立であり, 固有値は互いに異なる $ \lambda_1\neq\lambda_{r+1}$, $ \lambda_2\neq\lambda_{r+1}$, $ \cdots$, $ \lambda_r\neq\lambda_{r+1}$ ので, $ c_1=c_2=\cdots=c_r=0$ となる. このとき $ \vec{p}_{r+1}=\vec{0}$ である. 固有値は零ベクトルとはならないので, 条件は矛盾する. よって, $ \vec{p}_1$, $ \cdots$, $ \vec{p}_r$, $ \vec{p}_{r+1}$ は 1 次独立である. すべての $ r=1,2,\cdots$ 対して成り立つので $ r=n$ を得る.

Kondo Koichi
平成18年1月17日