4.12 正則変換と逆変換

定義 4.54 (正則変換)   線形変換 $ f:V\to V$上への 1 対 1 写像であるとき, $ f$正則変換(regular mappping) という.

注意 4.55 (逆変換)   上への 1 対 1 写像であれば逆変換 $ f^{-1}$ が存在する. 正則変換は逆変換が存在する線形変換である,と読み替えてもよい.

定理 4.56 (正則変換と正則行列)   線形写像 $ f$ が正則変換であることと, $ f$ の表現行列が正則行列であることとは必用十分な条件である.


(証明)     ( $ \Rightarrow$) 写像 $ f$, $ g$, $ h$ の表現行列を $ A$, $ B$, $ C$ とする. このとき

$\displaystyle g\circ f=h \quad\Leftrightarrow\quad BA=C$    

が成り立つ. 恒等変換の表現行列は単位行列 $ E$ であるから, $ g=f^{-1}$ のとき

$\displaystyle f^{-1}\circ f=\mathrm{id} \quad\Leftrightarrow\quad BA=E$    

が成り立つ.よって $ B=A^{-1}$ を得る.

注意 4.57 (逆変換と逆行列)   $ f^{-1}$ が存在することと, $ f$ の表現行列 $ A$ の逆行列 $ A^{-1}$ が存在することは等価である.

4.58 (正則変換の具体例)   線形写像 $ f:\mathbb{R}^2\to\mathbb{R}^2;$

$\displaystyle f\left( \begin{bmatrix}1 \\ 1 \end{bmatrix} \right)= \begin{bmatr...
...gin{bmatrix}1 \\ -1 \end{bmatrix} \right)= \begin{bmatrix}-4 \\ 2 \end{bmatrix}$    

の表現行列とその行列式は

$\displaystyle A= \begin{bmatrix}-1 & 3 \\ 3 & 1 \end{bmatrix}, \qquad \det(A)= \begin{vmatrix}-1 & 3 \\ 3 & 1 \end{vmatrix} =-10\neq0$    

である. $ A$ は正則行列であるから,$ f$ は正則変換である.

4.59 (正則変換ではない具体例)   射影変換 $ f:\mathbb{R}^3\to\mathbb{R}^3$; $ \vec{y}=f(\vec{x})=\vec{x}-(\vec{x},\vec{e}_{3})\vec{e}_{3}$ の 表現行列とその行列式は

$\displaystyle A= \begin{bmatrix}1 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & 0 \end{bmatri...
...ad \det(A)= \begin{vmatrix}1 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & 0 \end{vmatrix} =0$    

である. よって $ A$ は正則でないので $ f$ もまた正則ではない.

例えば点 $ (x_{1},x_{2},1)$ と点 $ (x_{1},x_{2},2)$ を 射影変換 $ f$ で写すとどちらも点 $ (x_{1},x_{2},0)$ に写される. 他にも点 $ (x_{1},x_{2},0)$ を通り軸 $ x_3$ に平行な直線上の点は全て $ f$ により点 $ (x_{1},x_{2},0)$ に写される. 逆変換 $ f^{-1}$ を考えるとき点 $ (x_{1},x_{2},0)$ から戻され点は 直線上に無限に存在することになる. よって $ f$ は 1 対 1 写像ではない. また, $ \mathbb{R}^3$ の任意の点は $ f$ により 全て $ x_{1}x_{2}$ 平面上に写される. $ x_{1}x_{2}$ 平面は $ \mathbb{R}^3$ の部分空間であるので, $ f$ は上への写像でもない.

注意 4.60 (核と正則変換)   線形変換 $ f:V\to V$ $ \mathrm{null}(f)>0$ のとき, $ f$ は正則変換ではない. なぜなら, $ \mathrm{Ker}\,(f)$ のすべての元は $ \vec{0}_V$ に写されるので, $ \vec{0}_V$ の逆元は存在しない. よって,$ f$ は 1 対 1 の写像ではなく,正則変換はない.


平成20年2月2日